新しい生き方の実験──「戦略的・非定職」という選択肢
定職こそ安定?という常識
「安定のために定職につく」──長く常識とされてきた道。
けれども、その常識を少し疑ってみると、新しい選択肢が見えてきます。
かつての日本社会では、正社員として働くことが人生の成功モデルでした。ボーナス、退職金、年金。いわば「会社が用意してくれる人生設計」に乗ることが、最も安心できるルートとされてきたのです。
しかし今、定職が必ずしも安心を保証するわけではなくなりました。リストラ、病気、介護、そしてAIによる自動化。こうした要素が、従来の「安定神話」を静かに崩しています。
お金に依存しすぎる暮らし
現代の暮らしは、居場所も食料もつながりも、多くを「お金で買う」ことで成り立っています。
昔話の「おじいさんは山へ柴刈りに」。
かつては自然から直接、暮らしに必要な資源を得ることができました。
けれど現代では、山には所有者がいて勝手に入ることはできません。公園で寝泊まりすることも禁止され、木の実や草を採取することも規制されています。
つまり、どんなにシンプルな暮らしを望んでも、結局は「お金」が必要になるのです。
定職の安定と、その代償
もちろん、安定収入には意味があります。
しかし、それは「健康に働けるうち」という条件付きの安心です。病気やケガで収入が途絶えたとき、家賃も食費も待ってはくれません。
だからこそ、多くの人が「定職」という枠組みにしがみついてきました。
ですが、その代償は小さくありません。
- 毎日同じ時間に出勤する
- 同じ業務を繰り返す
- 創造性や柔軟性が削がれていく
安全と引き換えに、人生の抑揚や自由が奪われていくのです。
定職から“卒業”するという選択
ここで、視点を変えてみましょう。
「無職」や「非正規」を「不安定」と否定するのではなく、むしろ「定職」というシステムから“卒業”する。
そこには「逃げ」ではなく「実験」という前向きな意味があります。
- 居場所を一つに限定しない
- 食料の一部を自給する
- つながりを助け合いの形で築く
こうした小さな工夫を積み重ねることで、「お金に全面依存しない」暮らしの安全網を作ることができます。
戦略的・非定職という生き方
今の時代、「定職=正解」ではありません。
むしろ、戦略的に「非定職」を選び取るという考え方が出てきています。
お金だけに頼らず、居場所・食料・つながりを分散して持つことで、逆に強く、しなやかに生きられる。
それが「戦略的・非定職」という生き方です。
実例から見る「新しい生き方」
ニート株式会社の挑戦
「ニート株式会社」は、まさにこの実験を体現した存在です。
正社員として「会社に属する」のではなく、会社を「ゆるやかな居場所」として共有する。
働くも働かないも自由。報酬も義務も強制されない。
このスタイルは、社会から見れば「不安定」と映るかもしれません。
けれど参加者にとっては「働く/働かない」という枠を超えた、安心や居場所を感じられる実験場になっています。
「稼ぐ」だけでなく「つながる」ことに価値を見出す姿勢は、これからの生き方の大きなヒントです。
セルフベーシックインカムという仕組み
もう一つの例は「セルフベーシックインカム」です。
これは国からの給付に頼るのではなく、個人が自ら「小さな収入源」を組み合わせて、自分版ベーシックインカムを作るという考え方です。
- FXや株の自動売買システム
- ネットショップやコンテンツ販売
- 小さな貸し借りの相互扶助
こうした仕組みをミックスすることで、生活費のすべてを賄えなくても「最低限、家賃は払える」「食費の一部はまかなえる」といったセーフティネットを築けます。
重要なのは「稼ぐ額の大きさ」ではなく、「生活の基盤を分散して持つこと」。
これによって、たとえ仕事を失っても「ゼロにならない安心」を得られるのです。
非定職の強み
非定職の生き方は、決して「楽」ではありません。
ですが「定職が崩れたときのリスク」を和らげる力を持っています。
- 居場所が複数あることで、ひとつのコミュニティが崩壊しても孤立しない
- 自給や小商いがあれば、完全無収入になるリスクを避けられる
- 助け合いのつながりが、金銭以外の安心をもたらす
つまり、非定職は「不安定」ではなく「分散型の安定」なのです。
終わりに──「実験する勇気」
定職という常識を疑うことは、怖さを伴います。
ですが、ニート株式会社やセルフベーシックインカムの実践者たちが示すように、それは決して「無謀な賭け」ではなく「未来を試作する実験」なのです。
「戦略的・非定職」という選択肢は、これからの時代における新しい安心の形。
誰もがすぐに飛び込めるものではなくても、「お金だけに依存しない生き方」を少しずつ取り入れていくことで、私たちはより柔らかく、より強い暮らしを築けるのかもしれません。