気分が沈んで動けない、何もやる気が起きない、そんな状態が続くとき、人は「どうすればよいのか」がわからなくなってしまいます。特に、うつ病や適応障害などによって抑うつ状態にあるときには、ただ日常を送ることすら困難に感じられることがあります。
こうした状態では、「自分が弱いからこうなったんだ」と責めてしまったり、「もっと頑張らないといけない」と無理をしてしまったりすることが少なくありません。しかし、そうした考え方が、かえって心の状態を悪化させる原因になることもあるのです。
本記事では、うつ状態にあるときの心の過ごし方について、専門的な知見に基づいた4つの方法をやさしくお伝えしていきます。心が少しでも軽くなるヒントとして、ゆっくり読み進めてみてください。
抑うつ状態とはどんな状態か
まずは、うつ状態とはどういうものなのかを知ることが大切です。これは単なる気分の落ち込みではなく、心と体の機能に広く影響を与える状態です。うつ病や適応障害などの疾患に伴って現れることが多く、持続的な悲しみや自己否定感、強い疲労感などが見られるのが特徴です。
さらに、気分の低下だけでなく、やる気の減退、楽しみを感じにくくなる、思考力や集中力の低下、睡眠や食欲の乱れ、さらには頭痛やめまいなどの身体的な不調も伴うことがあります。
こうした症状は、日常生活に大きな影響を与えます。たとえば、これまでできていた仕事や家事が急にできなくなったり、対人関係がうまくいかなくなったり、外出すら難しくなったりすることもあります。こうした変化に戸惑い、自分を責めてしまうことも多いのですが、まずは「それが自然な反応である」ということを知るだけでも、少し心が和らぎます。
その状態を悪化させやすい考え方の癖
抑うつ状態にあるときに注意したいのは、「考えすぎてしまうこと」です。特に、嫌な出来事を繰り返し思い出したり、未来への不安ばかりに意識が向いたりする状態は、心にとって大きな負担になります。こうした思考のくせを「反芻思考」と呼びますが、これは回復の妨げになることが多いです。
反芻思考に陥ると、頭が休まらず、さらに疲弊してしまいます。そして、「なぜこんなふうになってしまったのだろう」「自分はダメな人間だ」と自己否定が強まり、それがまた気分の落ち込みを深めていく、という悪循環が生まれてしまいます。
また、「考えることは努力だ」「考え続けることが前に進むために必要だ」といった思い込みがあると、考えること自体を手放せなくなってしまうことがあります。しかし、実際には、考えすぎることでかえって状態を悪化させてしまうことがあるのです。大切なのは、「考え続けることがすべてではない」と理解し、自分の心を守る選択をしていくことです。
一つ目の過ごし方 ゆっくり休むことを大切にする
うつ状態のとき、まず大切なのは「休むこと」です。疲れ切った心と体に必要なのは、無理をして動き続けることではなく、しっかりとした休養です。できることであれば、仕事や日常の義務から一旦距離をとり、静かに自分の内側に戻る時間を確保していきましょう。
たとえば、仕事を休むことが難しくても、意識して1日の中に「考えなくていい時間」を作るだけでも意味があります。ゆっくり横になったり、何も考えずに空を見たり、そんな時間が脳の疲れを癒すきっかけになります。
また、うつ状態はストレスによって悪化したり、慢性化しやすい傾向があります。したがって、まずはストレスから距離をとることが、状態をこれ以上悪くしないための第一歩になります。
「寝すぎてしまう」「動けない」といったことも、症状の一部であり、責める必要はありません。むしろ、そうした反応が出ているということは、心と体が「もう少し休みたい」と訴えている証拠でもあります。
二つ目の過ごし方 小さな気分転換を見つける
休養がある程度取れてきたら、次に取り入れたいのは「気分転換」です。とはいえ、無理に楽しいことをしようとする必要はありません。大切なのは、今の自分にもできる「少しだけ違うこと」に取り組んでみることです。
たとえば、軽い運動や散歩、趣味に関する小さな作業、気持ちのいい音楽を聴く、湯船につかるなど。自分が少しでも心地よさを感じられることであれば、それは立派な気分転換になります。
気分が沈んでいるときは、どうしても辛いことばかりに意識が向きがちです。けれども、ほんの少しでも楽しい刺激を取り入れることで、心の状態に変化をもたらすことができます。もちろん、無理に「楽しさ」を感じようとしなくても構いません。ただ、何かに集中してみるということ自体が、考えすぎから離れる一歩になります。
大切なのは、「できることから少しずつ」始めることです。気分が少しでも落ち着く感覚が得られたら、それだけでも十分意味があります。
三つ目の過ごし方 考えすぎを手放す練習をする
うつ状態にあるとき、「どうしてこんなふうになってしまったのだろう」「何がいけなかったのだろう」と頭の中でぐるぐると考え込んでしまうことがよくあります。これはとても自然な反応ですが、放っておくとどんどん深みにハマってしまうことがあります。
こうした思考のくせに気づいたときには、「あ、今自分はまた同じ考えに戻っているな」と少し距離を取って見つめることが大切です。そして、そのたびに別のことに意識を向けるよう心がけてみてください。
たとえば、部屋の窓を開けて外の音を聞く、手を動かして簡単な家事をする、深呼吸をして身体感覚に意識を向けるなど、どんなことでもかまいません。大切なのは、内側で繰り返している思考から、外の世界に注意を向けることです。
また、「考えすぎること=努力」という感覚を手放すことも大事です。たとえ周囲の人に「もっとしっかり考えるべきだ」と言われていたとしても、自分の心の負担になるような思考は、やはり見直すべきタイミングかもしれません。
心の健康のためには、「一生懸命考えること」よりも、「今の自分を大切にすること」の方がずっと重要です。
まとめ
抑うつ状態にあるときは、心がとても敏感になり、ささいなことでも大きな負担に感じられるものです。そのようなときに無理をして頑張るよりも、まずは「自分を守るための過ごし方」を選んでいくことが大切です。
休養をしっかり取ること、考えすぎを手放すこと、小さな気分転換を見つけること。これらはどれも、少しずつ回復の方向へと向かうためのヒントになります。
大きな変化を一気に目指す必要はありません。まずは今日一日をどう過ごすか、今この瞬間をどう感じるか、そんな小さなことから始めてみてください。ゆっくりでいいのです。焦らず、自分のペースで歩んでいきましょう。心がまた動き出すその日まで、やさしく自分に寄り添いながら。