毎日を少しずつ楽にする認知行動療法のコツと活用例

メンタル
この記事は約6分で読めます。

気分が落ち込みやすくなったとき、心が重たく感じるとき、どんなふうに過ごしていますか。日々の暮らしのなかで、うまくいかないことが重なったり、自分を責める気持ちが強くなったりすると、心はどんどん疲れていってしまいます。そんなときに少しでも気持ちを軽くし、日常を過ごしやすくするための考え方として、「認知行動療法(CBT)」があります。

この方法は、頭の中に自然に浮かんでくる考え(自動思考)を見直し、それに伴う行動を少しずつ変えていくことを目的としています。うつ病の治療や予防の場面でもよく使われている方法で、自分の考え方や行動のクセに気づくことで、心の状態を穏やかに整える助けになります。

この記事では、認知行動療法の基本的な考え方と、実際にどのように取り組めばよいのかについて、具体的なステップをやさしく丁寧に解説していきます。初めての方でも取り入れやすいように、日常に活かせる視点を中心にご紹介します。

認知の偏りに気づくことから始まる

認知行動療法ではまず、「自分の考え方には偏りがあるかもしれない」と気づくことが大切な第一歩になります。私たちは日常のなかで、何気ない出来事に対して無意識にさまざまな意味づけをしています。しかしその中には、実際の状況よりもネガティブに捉えてしまっているものも多くあります。

たとえば、人に少し冷たくされたように感じたときに、「きっと嫌われたんだ」と考えてしまったり、仕事でミスをしたときに「やっぱり自分は何をやってもダメだ」と思ってしまうことはないでしょうか。これらの思考はとても自然なものですが、現実をそのまま映しているわけではありません。思い込みや過去の体験から引き出された一時的な感情であることも多いのです。

認知行動療法では、そうした自動的な思考を丁寧に見つめ直し、「本当にそうだろうか」と問い直すことで、気持ちの負担を軽くしていきます。この視点の転換が、心の状態をゆっくりと整えるきっかけになります。

行動の見直しで日常を整える

自分の思考のクセに気づいたら、次に取り組むのが「行動の見直し」です。ここで紹介されるのが「行動活性化」という方法です。これは、日々の行動パターンを把握し、それを少しずつ調整していく取り組みです。

まずは、自分の1日の過ごし方をざっくりでもよいので記録してみましょう。朝起きた時間、食事をとった時間、仕事をした時間、休憩した時間、眠った時間などを一通り書き出します。そのときに、どのタイミングで気分が沈んだか、何をしていたときに少し楽になったかということも一緒に書いておくとよいでしょう。

この記録をしばらく続けると、自分の気分がどんな行動に左右されやすいかが見えてきます。たとえば、長時間の作業のあとにひどく疲れて気持ちが沈みやすいとか、通勤中に緊張してしまうことが多いなど、気分と行動のつながりが少しずつ浮かび上がってきます。

このような気づきが得られたら、できるだけ気分が落ち込みにくいような行動に置き換えていく工夫をしていきます。たとえば、通勤中の不安が強い場合には音楽を聴いてみる、長時間の作業をこまめに区切る、寝る前のスマホ使用を控えて睡眠時間を確保するなど、できる範囲からで構いません。行動の調整によって、少しずつ気分の波が穏やかになっていく感覚がつかめるようになります。

思考の整理と気分の記録を習慣にする

次に紹介するのが、いわゆる「7つのコラム」と呼ばれる方法です。これは、ある出来事に対して自分がどのように感じ、どのように考えたかを順番に整理していく作業です。ノートやアプリなどに、以下の項目を書いていきます。

まず、出来事を書きます。たとえば「上司に注意された」といった事実だけをシンプルに記載します。次に、そのとき自分がどのように感じたかを書きます。「強く落ち込んだ」「自信をなくした」など、率直な感情を記してみましょう。

続いて、そのときに浮かんだ自動思考を言葉にします。たとえば「自分は能力がない」といった考えが出てきたとします。その考えを支えている根拠を書き、さらにそれに反する見方も考えてみます。たとえば「昔も失敗したことがある」が根拠なら、「誰でも失敗はある」「別の場面では評価されたこともある」といった反証を書き添えます。

最後に、もう少し穏やかで現実的な見方を探して、今後の対処法を考えます。「ミスはしたけど、次は気をつければ大丈夫」「落ち込んでも、自分には価値がある」など、前向きでバランスの取れた視点に切り替えていきます。

この作業は最初は時間がかかるかもしれませんが、慣れてくると自然に頭の中でできるようになってきます。すべてを書き出さなくても、感情と出来事だけでも記録するだけで効果があります。継続することで、気分の波がなだらかになる感覚が出てくることが多いです。

対人関係の苦手をほぐしていく工夫

人と接する場面での不安や緊張に対しても、認知行動療法は役立ちます。対人関係が苦手だと感じている場合は、「アサーショントレーニング」という視点を活用してみるのもおすすめです。

これは、ある出来事に対してどのような言い方をすればよかったのかを、あらかじめ練習しておく方法です。たとえば、人から理不尽な指摘を受けたとき、攻撃的に返すのでもなく、我慢して飲み込むのでもない、第三の言い方を探してみます。

極端に怒りをぶつける返し方と、なんでも受け入れてしまう返し方の両方をまず書き出してみます。そこから、自分の気持ちを丁寧に伝えつつ、相手への配慮も含めた表現にまとめてみると、実際の場面での選択肢が広がります。これは頭で考えるだけでなく、書き出すことで整理しやすくなるのが特徴です。

実際に言葉にするのが難しいと感じるときは、ひとりで練習するだけでも構いません。少しずつ繰り返していくことで、少しずつ自信がついてくるものです。コミュニケーションのハードルを下げる助けにもなります。

一人では難しいときの工夫とサポートの活用

認知行動療法に取り組むうえで、どうしても続けるのが難しいと感じるときもあります。そんなときには、ひとりで抱え込まず、サポートを得る工夫をしてみるのも大切です。

近年では、認知行動療法を取り入れたアプリも多く登場しています。気分の記録や思考の整理がしやすいように設計されているものもあり、書くことに抵抗がある方でも比較的取り組みやすくなっています。また、仲間同士で気持ちを共有し合うグループ活動や、互いに励まし合う場を活用することも支えになります。

思いついたことを自由につぶやくような場を持つだけでも、心が少し楽になることがあります。話すことが難しいときでも、「書く」「共有する」という形を通じて、自分の心の中を整理していくことができます。

まとめ

認知行動療法は、特別な技術や資格がなくても、日常生活のなかで少しずつ実践できるこころの整え方です。思考の偏りに気づき、それを穏やかに修正しながら、行動を調整していくことによって、気分の落ち込みや不安感を和らげていくことができます。

大切なのは、完璧を目指すのではなく、今日できることをほんの少しやってみることです。書き出すことに抵抗があっても、まずは自分の気持ちに意識を向けてみるところから始めてみてください。継続するなかで、少しずつ変化を感じられる日がやってくるはずです。

焦らず、無理せず、自分のペースで取り組んでいきましょう。あなたの心が、少しでもやわらかく、穏やかに過ごせるようになりますように。

タイトルとURLをコピーしました