体調の波を前提にした「非同期型の仕事」という発想
多くの就労制度や雇用モデルは、暗黙の前提として
「人は毎日、ほぼ同じ体調で、同じ時間に、同じ場所で働ける」
という仮定の上に成り立っている。
しかし精神障害や慢性疾患、発達特性を持つ人にとって、
この前提そのものが現実と噛み合っていない。
- 今日は集中できるが、明日は全く動けない
- 午前は無理だが、深夜なら頭が冴える
- 数時間は問題ないが、連日続くと崩れる
こうした体調の波は「例外」ではなく常態である。
にもかかわらず、現在の就労支援や雇用制度は
「波を抑え、均す」ことを目的として設計されている。
その結果、
本人の努力や根性の問題ではなく、
制度との不整合によって脱落が繰り返される。
非同期型とは「サボれる仕事」ではない
ここで言う非同期型の仕事とは、
「好きなときに適当にやる」ことではない。
ポイントは次の三つだ。
- 成果物ベースで評価される
- 作業時間や開始時刻が固定されていない
- 体調が良いときにまとめて進め、悪いときは止められる
つまり、
「稼働時間」ではなく「アウトプット」で成り立つ仕事である。
同期型労働が抱える致命的な問題
現在主流の同期型労働には、精神障害者にとって致命的な特徴がある。
- 出勤できなかった時点で評価がゼロになる
- 途中で体調が崩れても、その日の成果は無効扱い
- 周囲との比較が常に発生する
これは能力や意欲とは無関係に、
体調不良=社会的失点という構造を生む。
一方、非同期型では、
- 今日は何もできなくても「未提出」なだけ
- 明日まとめて提出すれば評価される
- 他人のペースが視界に入りにくい
という設計が可能になる。
非同期型仕事の具体的な特徴
1. タスクが細かく分解されている
体調の波がある人にとって
「8時間働く」は無理でも
「15分集中する」なら可能なことは多い。
非同期型では、
- タスクが小さく切られている
- 途中で止めても破綻しない
- 再開コストが低い
ことが重要になる。
2. 失敗しても「迷惑」が最小化される
同期型労働では、
一人の不調が全体の遅延につながる。
非同期型では、
- 個人の遅れが全体に波及しにくい
- 代替や後追いが可能
- 「今日は無理です」と言わなくてもよい
という設計ができる。
これは精神的負担を劇的に下げる。
3. コミュニケーションが非即時で完結する
体調が悪いときに最も消耗するのが、
即時性を要求されるコミュニケーションだ。
- 電話
- 即レス前提のチャット
- 会議
非同期型では、
- テキスト中心
- 返信期限が緩やか
- 感情労働が少ない
これだけで、
「仕事が怖い」という感覚がかなり薄れる。
体調の波と「自己肯定感」の関係
体調の波を否定され続けると、
人は次第にこう考えるようになる。
- 自分は怠けている
- 周囲に迷惑をかける存在だ
- 働く資格がない
これは症状そのものよりも、
二次障害としての自己否定を生む。
非同期型の仕事は、
体調の波を「欠陥」ではなく
前提条件として織り込むため、
- できない日があっても失敗にならない
- できた日は純粋に評価される
という、極めて重要な違いがある。
なぜ既存の福祉就労は非同期化しないのか
理由は明確だ。
- 管理が難しい
- 成果測定が手間
- 支援員のスキルが問われる
- 効率化すると制度収入と合わない
つまり、
制度側の都合と相性が悪い。
農園型が「時間を消費させる構造」になっているのも、
非同期化すると成り立たないからである。
非同期型と「労働でない収入」の接点
非同期型の仕事は、
必ずしも「雇用」である必要はない。
- デジタル資産
- 自動化された仕組み
- ストック型の成果物
これらはすべて、
体調の良い瞬間に作り、後で価値を生む。
ここで、
自動売買や小規模生産、デジタル販売といった
ニートキット的発想が接続される。
重要なのは「毎日働く」ことではない
多くの制度は、
「毎日働けるようにする」ことをゴールにしている。
しかし現実には、
- 毎日働けなくても生きていける
- 体調の良い日に価値を生める
- 収入が完全に労働時間と連動しない
こうしたモデルのほうが、
精神障害者の実態に合っている可能性が高い。
まとめ
体調の波を前提にした非同期型の仕事とは、
- 人を制度に合わせるのではなく
- 制度を人の状態に合わせる
という発想の転換である。
それは甘えでも逃げでもなく、
長期的に人を壊さず、社会参加を可能にするための設計だ。
雇用率代行ビジネスが
「今月を乗り切る仕組み」だとすれば、
非同期型の仕事は
5年後も生き残るための土台になり得る。

