出来損ないと呼ばれて──感情を閉ざした子どもが、大人になって学んだこと
「出来損ない」「遺伝子の異常」
幼い頃、母からそう言われ続けてきた記憶は、私の心に深く刻み込まれています。
子どもは本来、安心できる大人に抱きしめられ、泣いたり笑ったりしながら「感情を表現する練習」をしていく存在です。しかし、私の場合はその練習が徹底的に否定されてきました。
この記事では、私自身の体験を語りながら、同じように「感情を出せないまま大人になった人」がどうやって回復していけるのか、そしてなぜ社会全体で“毒親”問題を理解することが大切なのかを考えてみたいと思います。
厳しすぎる母の期待と、押し殺された子ども時代
私の母は、表面的には「しっかりした母親」でした。父は大学教授という立場にあり、母も「教授の家族にふさわしい振る舞い」を求めました。
・服は市販のものではなく、母が決めた手作りの服
・日々のスケジュールは細かく管理され、自由はほとんどない
・父に恥をかかせてはいけない、という言葉が合言葉のように繰り返される
小学生の頃、私は友達が着ていたキャラクターのTシャツや、流行のスカートに憧れて「私も欲しい」と口にしたことがあります。その瞬間、母は烈火のごとく怒り、「恥さらし」と罵り、一週間無視しました。
その日を境に、私の中で「欲しいと願うこと」「感情を言葉にすること」はタブーになりました。
感情を否定されると、人はどうなるか
心理学では、子どもが育つうえで「安全基地」となる存在が不可欠だとされています。泣いても、わがままを言っても、最終的には受け止めてもらえる――その安心感が、心の土台を作ります。
ところが毒親のもとで育つと、この安全基地が存在しません。
・泣くと「みっともない」
・怒ると「醜い」
・欲しがると「わがまま」
そんな言葉を浴びせられ続けると、子どもは次第に「自分の感情=悪いもの」と思い込むようになります。
私自身もそうでした。思春期を迎える頃には「感情を出さないこと」が生き延びる術となり、クールで冷静な仮面をかぶるようになっていました。
交友関係は浅く広く、恋愛も「楽しい瞬間」だけを切り取って終わらせる。深い人間関係は、怖くて築けなかったのです。
大人になっても消えない「影」
多くの人が誤解しがちなのは、「大人になれば親の呪縛から自由になれる」という考えです。実際には、子ども時代に刷り込まれた自己イメージや感情表現の癖は、大人になっても簡単には消えません。
私も社会人になり、結婚し、家庭を築いてもなお、感情が高ぶったときに「母と同じ表情」をしている自分を見つけてしまうことがあります。
これはいわゆる「内なる毒親」の声です。
外からの罵声が消えても、心の奥底に母の声が残り続け、自分自身を責めるのです。
出会いと学びがもたらした回復
そんな私を少しずつ変えてくれたのは、夫との出会いでした。彼は境遇や価値観が似ていたこともあり、私が「素の自分」を出しても拒絶されませんでした。
また、心理学やカウンセリングの学びを通じて、自分の中の「感情のタブー」を客観的に理解することができました。
・感情を表現することは悪ではない
・怒りや悲しみも、大切なサインである
・安心できる相手の前で感情を出すことは、むしろ健全である
そうした気づきを少しずつ積み重ねることで、私は「感情を取り戻す練習」を始めることができました。
毒親体験は“個人の問題”ではない
ここで強調したいのは、毒親問題は単なる「家庭の不幸話」ではなく、社会全体の課題でもあるということです。
毒親のもとで育った子どもは、感情を表現できず、人間関係や自己肯定感に苦しむことが多い。結果的に、不登校や就労困難、うつ病、対人不安などへとつながることがあります。
つまりこれは、教育問題であり、労働問題であり、福祉や医療にも直結する大きなテーマなのです。
感情を取り戻すためにできること
もし同じように「感情を出せないまま大人になってしまった」と感じている人がいたら、次のことをおすすめします。
- 安全な相手の前で小さく試す
信頼できる人に、まずは「嬉しい」「悲しい」と短く言ってみる。 - 日記やメモに感情を書き出す
文字にすることで、自分の感情を客観的に見られるようになります。 - 専門家に話す
心理士やカウンセラーとの対話は、感情のリハビリになります。 - 安心できるコミュニティに身を置く
批判や否定のない環境で、自分を表現する練習を重ねることが大切です。
まとめ──感情は「敵」ではなく「味方」
毒親に育てられた私にとって、感情は長らく「敵」でした。
でも今は、感情は人生をカラフルにする「味方」だと思えるようになってきています。
母の声はまだ完全には消えません。けれど、その声を「自分のもの」と取り違えず、客観的に聞けるようになったのは、大きな一歩です。
もし、あなたも同じように感情を閉じ込めてきたのなら――どうか知ってください。
感情はあなたを壊すものではなく、あなたを守るために存在しているのです。
そして、取り戻すことは遅くありません。
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