気分の波が大きく、落ち込みやすい、そんな日々が続いていると、自分が「うつ病」なのか、それとも別の可能性があるのか、不安になることもあるかもしれません。実は「うつ状態」とひと口に言っても、背後にある病気の種類によって、見え方や対処法がまったく異なることがあります。その中でも見過ごされがちなのが、「双極性障害」のうつ状態です。
双極性障害は、うつ状態と躁状態という二つの極端な気分の波を経験する病気です。多くの場合、本人も周囲も「うつ状態」にだけ気づきやすく、「躁状態」の存在が見逃されてしまうことがあります。その結果、治療が適切に行われず、回復までに長い時間がかかってしまうこともあるのです。
この記事では、うつ病との違いを知る手がかりとして、「双極性障害のうつ状態に特有の6つの特徴」について、できるだけわかりやすくお伝えします。心の不調を感じている方、あるいは身近な人が悩んでいる方にとって、少しでも役立つ情報になれば幸いです。
双極性障害とうつ病の違いとは
まず初めに、双極性障害とうつ病はまったく別の病気です。かつては「躁うつ病」として一括りにされていたこともありましたが、現在ではそれぞれの診断基準や治療方法がはっきりと分けられています。
双極性障害は、気分が高ぶる「躁状態」と、沈み込むような「うつ状態」の両方を繰り返すのが特徴です。ところが、本人が医療機関を訪れるタイミングは、たいてい「うつ状態」のとき。気分が高まっている躁状態のときには、体も軽く、眠らなくても活動できてしまうような状態で、むしろ快調に感じるため、自ら異変を感じずに過ごしてしまうのです。
そのため、医師に伝えられるのは「うつ」の辛さだけ。結果として、うつ病と診断されてしまうケースが非常に多くなります。治療が始まっても思うように回復せず、あるいは逆に急に気分が高まりすぎて生活に支障をきたすことで、後になって双極性障害であったことに気づかれるのです。
では、どうすれば早い段階でその違いに気づけるのでしょうか。ここからは、双極性障害のうつ状態に見られやすい6つの特徴を順にご紹介していきます。
気分が環境に左右されやすい性格傾向がある
双極性障害のうつ状態に見られる一つの特徴として、「循環気質」と呼ばれる気質があります。これは、気分が周囲の出来事や環境に強く影響されやすい性格傾向のことを指します。
たとえば、良いことがあると一気に元気になり、逆に小さな不安や失敗があると急に落ち込んでしまうなど、感情の振れ幅が大きい傾向があります。普段は社交的で明るく、人と関わるのが好きな一面もありますが、その裏には常に揺れ動く気分が存在しています。
このような気質を持つ人が強いストレスや生活の変化などに直面したとき、気分の調整がうまくいかなくなり、うつ状態や躁状態に振り切れてしまうことがあります。自分や身近な人の性格が思い当たる場合、注意深く見守ることが大切です。
家族に似たような症状を経験した人がいる
もうひとつ注目すべき点は、家族歴です。精神疾患の中には遺伝的な影響が比較的強く働くものがあり、双極性障害もそのひとつです。
身内に同じような気分の波があった人がいる、あるいは過去に「うつ病」や「躁うつ病」と診断された人がいる場合、同じような傾向が現れる可能性があります。ただし、これは「遺伝だけが原因」という意味ではありません。育った環境やストレス、性格など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。
家族の中に似たような症状を経験している人がいた場合には、その背景に双極性障害の要素がある可能性を頭の片隅に置いておくことが大切です。
子どものころに神経的な問題を抱えていた経験がある
双極性障害は、脳の働きに関連する障害とされており、子どものころに何らかの神経発達上の問題を抱えていた人に見られることがあります。
たとえば、幼少期に発達の遅れやチック症状、または集中力の欠如、感情のコントロールが難しいといった兆候があり、小児科や精神科でのサポートを受けた経験がある人の場合、思春期以降にうつ状態が出てきた際には、双極性障害や他の精神疾患の可能性を慎重に考える必要があります。
一見すると無関係に思える子どもの頃の様子が、大人になってからの心の病に深く関係していることもあるため、過去を振り返ることも大切です。
比較的若い年齢でうつ状態を経験している
うつ病は年齢に関係なく誰にでも起こりうるものですが、双極性障害の場合は、発症年齢に特徴があります。
一般的に、双極性障害は思春期から20代前半にかけて発症することが多く、40代以降に初めて症状が現れることは少ないとされています。つまり、比較的若い段階で気分の落ち込みが続いたり、学校や仕事に行けなくなったりした場合には、うつ病だけでなく双極性障害の可能性も視野に入れて考えることが重要です。
「まだ若いからストレスに弱いだけ」と見過ごされがちなこの時期に、正確な見立てがつくかどうかが、その後の治療や回復に大きく影響してくるのです。
食欲や睡眠に特徴的な変化がある
一般的なうつ病では、食欲が落ちたり、夜眠れなくなったりする傾向が見られます。体重が減少し、表情や動作も徐々に乏しくなっていくような様子が典型的とされています。
ところが、双極性障害のうつ状態では、これとは逆の変化が起こることが少なくありません。具体的には、食欲が異常に増し、甘いものや炭水化物を過剰に摂るようになることがあります。また、体が重く感じて動きたくない、眠っても眠ってもまだ眠いというような強い倦怠感も特徴です。その結果、体重が増えてしまう人もいます。
このように、うつ状態でありながら「過食」「過眠」「体重増加」といった逆の変化がある場合は、うつ病ではなく双極性障害の可能性があると考えたほうがよいでしょう。
抗うつ薬に対する反応が通常と異なる
最後に、薬への反応にも大きな違いがあります。うつ病では、抗うつ薬を使うことで徐々に気分が改善していくのが一般的です。しかし、双極性障害のうつ状態では、抗うつ薬がまったく効かない、あるいは急に気分が高ぶりすぎて、逆に生活が不安定になるようなケースがあります。
急激に元気になり、活動的になりすぎるような反応が出た場合、それは単なる「良くなった」という状態ではなく、躁状態に転じてしまっている可能性があるのです。このようなケースでは、抗うつ薬の中止や気分安定薬の導入など、治療方針の見直しが必要になります。
薬が効きすぎている、あるいはまったく効かないというときには、その背景にある病気の見直しも含めて、慎重に対応していく必要があるのです。
まとめ
うつ状態という言葉の裏には、さまざまな心の病が隠れていることがあります。中でも双極性障害のうつ状態は、その特徴が見落とされやすく、うつ病と誤解されやすい病気です。
気分の波に振り回されやすい性格、家族に似たような傾向のある人がいること、子どもの頃の神経的な問題、若年期の発症、過食や過眠の症状、そして薬への反応。これらのサインを丁寧に振り返ることで、早期に適切な診断と治療を受けられる可能性が高まります。
「ただのうつ」と思っていた状態が、実はもっと複雑な心のサインであることもあります。無理をせず、必要に応じて専門家に相談することをためらわないでください。心の健康は、日々の小さな気づきから守っていくことができます。