「頭が痛いから鎮痛剤を飲む」。もちろん、それは自然なことだ。ただ、会社員として働いていると、そこに別の理由が混ざることがある。
「明日の朝8時までに、働ける状態に戻しておかなくてはならない」。
苦痛から逃れたいというより、出勤に間に合わせたい。そう考えると、仕事には納期があるだけでなく、体調管理にまで納期があることに気づく。
薬に求めていたのは「治ること」より「間に合うこと」かもしれない
例えば夜、軽い頭痛や肩こりが始まったとする。症状を記録し、休み、原因が分からなければ専門医に相談するという選択肢もある。
ところが翌朝に出勤が控えていると、気になることが変わる。「朝に起きられるだろうか」「通勤できるだろうか」「急な欠勤連絡をせずに済むだろうか」。
こうして、健康状態を判断する基準が「回復したか」から「働ける状態まで戻ったか」にすり替わることがある。早く効く薬がありがたいのは、痛みを減らしてくれるからだけではない。出勤という締め切りを守りやすくしてくれるからでもある。
鎮痛剤を使うこと自体が悪いわけではない。適切な使用は大事な治療だ。問題にしたいのは、服薬や受診を判断するときに、症状そのもの以上に勤務時刻が大きな影響を与えていないかという点である。
頭痛を経験する人が多くても、欠勤として表に出るとは限らない
2023年に発表された東京労災病院職員の調査では、回答した566人のうち401人(70.8%)が頭痛を経験していた。また53.6%が職場で頭痛について「自分からは言わない」と回答し、頭痛による早退・欠勤の経験者は5%以下だった。
ただし、これは一つの医療機関の職員調査であって、全国の会社員全体の割合ではない。休まなかった理由が鎮痛剤の使用にあったと断定できるわけでもない。
それでも、頭痛があることと、勤怠表に「病欠」が記録されることの間には大きな隔たりがあると分かる。具合の悪いまま出勤し、仕事の能力が低下している状態はプレゼンティーズムと呼ばれる。休んでいないことは、健康であることの証明にはならない。
資料:加藤宏一「医療機関職員における頭痛の実態調査」日本頭痛学会誌(2023年)
病院に行くための時間が取れないという矛盾
体調が悪いなら病院へ、と言うのは簡単だ。しかし、病院や役所、銀行の窓口は平日日中が中心で、会社員の勤務時間と重なりやすい。
専門外来を予約するより、通院のついでに薬をもらう。受診するより、市販薬で済ませる。症状が軽いと、そんな選択が何年も続くことがある。
転職直後はさらに難しい。年次有給休暇は法律上、原則として雇入れから6か月継続勤務し、出勤率8割以上などの要件を満たして付与される。企業が前倒しで付与する場合もあるが、初めから有休のない時期が生じることは珍しくない制度設計だ。
時間の都合だけでなく、休む連絡や引き継ぎが面倒で、医療機関への相談を後回しにすることもあるだろう。
鎮痛剤を減らしたい、と思える時間
仕事を休める余地ができると、「とりあえず明朝までに症状を抑える」以外の選択肢を考えやすくなる。
何が原因なのか。一度、頭痛外来などの専門医で調べたほうがよいのではないか。薬以外の対処法はあるのか。頭痛が軽くても、吐き気やぼんやり感が続くのはなぜなのか。
特に鎮痛剤を頻繁に使う人は、薬の種類と使用日数を把握しておきたい。日本頭痛学会は「薬剤の使用過多による頭痛」について情報を公開し、頭痛ダイアリーなどによる服薬日数の確認を勧めている。
必要な薬を自己判断でやめるのではなく、医師や薬剤師と相談して治療法や使用頻度を見直すことが大切だ。睡眠中に頭の痛みで目覚めるなど、気になる症状がある場合も診察で伝えたい。
資料:日本頭痛学会「薬剤の使用過多による頭痛」。本記事は診断や薬の変更を指示するものではない。
体調を「始業までの納品物」にしない働き方へ
もちろん、すべての会社員が受診できないわけではない。柔軟に休める職場もあるし、仕事をしていなくても家事や介護で時間の取れない人もいる。
それでも、決まった時刻に出勤する仕組みが、治療のタイミングや薬の選び方に影響することは考えておきたい。
必要なのは、本人にもっと体調管理を頑張らせることだけではない。誰かが休んでも回る業務設計、通院のために抜けられる時間、症状を伝えても不利益を心配しすぎずに済む環境ではないだろうか。
「明日8時までに治さなければ」と思わずに済むことも、健康を守る条件の一つ。
仕事には納期があっても、身体の回復は予定表どおりには進まないのだから。
