「農園を置く」から「出口をつくる」へ

「農園を置く」から「出口をつくる」へ その他
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障害者雇用のために、企業の本業から離れた場所へ人を集め、植物を育ててもらう。

このような農園型の雇用代行は、法定雇用率を満たす手段として広がってきました。

落ち着いた環境で働けることや、一般の職場では働きにくい人にも最低賃金を得る機会を提供できることには、一定の意味があります。

しかし、そこで作られたハーブや野菜が十分に活用されず、無料配布、社内利用、場合によっては廃棄へ回るのであれば、疑問が残ります。

問題なのは、ハーブや水耕栽培そのものではありません。

農作業の先に、顧客、販売先、継続的な需要が設計されていないことです。

同じ場所で同じ農作業をしても、量産の利点を生かしにくい

株式会社スタートラインが提供する屋内農園型障害者雇用支援サービス「IBUKI」では、企業に雇用された障害者が、屋内の執務スペースでハーブ、葉物野菜、エディブルフラワーなどの栽培に従事します。

同社の公式説明によると、栽培した作物は企業ごとの用途に合わせてハーブティーなどへ二次加工され、営業・採用活動のノベルティや福利厚生として活用されます。

ここで注目したいのは、成果物の利用方法が「企業ごと」に設計されている点です。

同じ施設の中で、同じような設備を使い、似た植物を育てていたとしても、A社の作物とB社の作物は、それぞれの所属企業が利用方法を考えます。

この仕組みは、企業単位で雇用管理を行ううえでは分かりやすいものです。

その一方で、施設全体の生産量を集約し、品質を統一して、大きな販売先へ継続的に出荷する仕組みとは相性がよくありません。

一つの施設に大勢の人が集まっていても、生産活動が所属企業ごとに分断されていれば、量産の利点を生かしにくくなります。

栽培設備は共有されていても、成果物の出口は共有されていないのです。

農園を契約した後で、成果物の使い道を考えていないか

収穫したハーブをハーブティーに加工し、社員へ配布したり、ノベルティとして利用したりすること自体が無意味なのではありません。

実際に必要とされ、受け取った人に喜ばれ、企業活動にも役立っているのであれば、一つの活用方法です。

ただし、企業が本来必要としていた商品を作るのではなく、雇用率を満たすために農園を契約した後で、成果物の使い道を探しているのであれば、順序が逆です。

雇用するために植物を育て、その植物を無駄にしないために、配布先や利用方法を考える。

この状態では、植物は市場で必要とされる商品というより、勤務時間を成立させるための材料になりやすくなります。

食品の加工設備や販売網を持たない企業ほど、成果物の出口を作ることは難しくなります。

農園の区画、栽培設備、支援スタッフは提供されても、成果物を継続的に必要とする顧客までは提供されない。

これが、農園型雇用における出口戦略の弱さではないでしょうか。

相鉄には、鉄道とスーパーマーケットという出口がある

同じ屋内水耕栽培でも、成果物の出口まで事業としてつながっている事例があります。

相鉄ホールディングスとエコデシックは、横浜市泉区の植物工場「SOTETSU GREEN LAB」で、フリルレタスやハーブを栽培しています。

詳しい事業内容は、相鉄グループとエコデシックの公式発表「そうてつとれたて便 ハーブ等の多品種同時栽培・販売を開始」(PDF)で確認できます。

収穫した野菜は相鉄線で輸送され、相鉄グループのスーパーマーケット「そうてつローゼン」で販売されます。

相鉄グループには、一般的な農園型雇用の代行事業者が簡単には用意できない、二つの強みがあります。

  • 沿線地域へ商品を運べる鉄道網
  • 一般消費者へ販売できるスーパーマーケット網

野菜を作った後で、利用方法を考えたわけではありません。

栽培、収穫、包装、鉄道輸送、店頭販売、消費者による購入という流れが、相鉄グループの事業基盤につながっています。

公式発表では、相鉄ホールディングスの特例子会社である相鉄ウィッシュのスタッフが、販売商品のパッケージシール貼りを担当していることも紹介されています。

障害者の作業も、実際に店舗で販売される商品の流通工程に組み込まれているのです。

実際に相鉄ローゼンで販売されていた

実際に相鉄ローゼンの青果売り場を確認すると、「そうてつとれたて便」のフリルレタスが、一般の商品として販売されていました。

店頭では1袋199円、税込215円という価格が付けられていました。

売り場の案内には、「洗わずに食べられる」「栽培期間中農薬不使用」「屋内水耕栽培」といった特徴が掲示され、袋には「相鉄が運ぶエコな野菜」と表示されていました。

この野菜は、職場の中だけで消費されたことにする成果物ではありません。

一般の消費者が、ほかの野菜と比較し、自分のお金を支払って購入する商品です。

売れれば追加生産の理由が生まれ、売れなければ、品種、生産量、価格、包装、売り方を見直す必要があります。

仕事の結果が、次の生産計画につながっています。

相鉄グループは、店頭アンケートで消費者の要望を集め、需要の高い品種を生産する「オンデマンド型」の栽培を目指すとしています。

ここでは、植物を育てること自体ではなく、消費者が必要とする植物を育てることが目的になっています。

必要なのは、各企業の強みと出口を結ぶコンサルティング

すべての企業に、同じハーブ栽培や水耕栽培を提案する必要はありません。

本当に必要なのは、企業がすでに持っている事業、設備、顧客、流通網を調べ、そこから障害者が担える仕事を設計することです。

鉄道会社であれば、駅、輸送網、沿線店舗、商業施設があります。

食品会社であれば、加工設備、商品開発、品質管理、販売先があります。

ホテルであれば、レストラン、客室、売店、宿泊客へのサービスがあります。

小売企業であれば、検品、包装、在庫管理、店舗販売につなげられます。

IT企業であれば、データ整理、動作確認、アクセシビリティ検証、デジタルコンテンツ制作なども考えられます。

農園という既製品へ企業を当てはめるのではなく、企業の強みと成果物の出口から仕事を逆算する。

これこそ、障害者雇用コンサルティングに求められる役割ではないでしょうか。

一か所に集めるなら、成果物の販売も集約する

複数企業の障害者が一つの施設で働く方式そのものが、必ずしも悪いわけではありません。

通勤しやすい場所を確保し、支援スタッフを配置しやすいという利点があります。

問題は、人だけを一か所に集めながら、生産活動と成果物を企業ごとに分断してしまうことです。

一つの施設に多くの区画があるのであれば、その規模を生かして、共同ブランド、共通の品質基準、共同出荷、共同販売といった仕組みを作る余地があります。

  • 地域のスーパー、飲食店、ホテルなどから注文を受ける
  • 需要に応じて施設全体の栽培品種を調整する
  • 品質基準と包装方法を統一する
  • 注文量に応じて各企業の区画へ生産を割り振る
  • 施設の共同ブランドとしてまとめて販売する

雇用契約は各企業に残しながら、受注、生産管理、販売先の開拓を施設全体で行う方法も考えられます。

各企業が個別にハーブティーの配布先を探すよりも、施設全体で継続的な需要を確保するほうが、成果物を生かしやすくなります。

販売実績や顧客の反応が見えるようになれば、生産量を増やす理由も、作業を改善する理由も生まれます。

米の水耕栽培という別の可能性

植物工場では、葉物野菜やハーブ以外の活用方法も研究されています。

株式会社あゆちは、草丈15~20センチ、栽培期間約2カ月という超矮性・早生型の「みずのゆめ稲」を使った室内水耕栽培について発表しています。

詳しくは、株式会社あゆちの発表「年6回収穫も可能な水耕稲作『みずのゆめ稲』が実証成功」で確認できます。

同社の発表によると、草丈が低いため多段式の設備で栽培でき、最大で年6回の収穫を目指せるとしています。

ただし、現時点で量産や採算性が確立された事業ではありません。同社も、完全な商品化や持続可能な量産体制の構築には、さらに検証が必要だとしています。

それでも、照明、液肥、温度、生育日数、収穫量などを記録し、次の栽培へ反映するのであれば、たとえ一部を廃棄したとしても研究成果が残ります。

育てた植物の利用先がないまま廃棄することと、食料生産技術を確立する実験の中で廃棄が発生することは、同じではありません。

「就労支援」だけでなく「収入支援」へ

私は、障害者支援の目的を「会社に雇用され、賃金を得ること」だけに限定しなくてもよいと思っています。

雇用契約には、最低賃金、社会保険、労働法による保護があります。その重要性を軽視するべきではありません。

しかし、本来支えたいものは、雇用という形式だけではなく、本人の生活と収入です。

週に一定時間会社へ通っていても、その多くを長い休憩や必要性の乏しい作業に使い、収入も最低賃金付近から増えないのであれば、雇用者数だけを成果として評価することには限界があります。

反対に、短時間の雇用と複数の収入源を組み合わせ、生活を安定させる方法もあります。

  • 成果物の売上に応じた手当や報酬
  • 支援付きの個人事業
  • 小規模な業務委託
  • 文章、デザイン、音声、動画などの制作物販売
  • デジタル商品やコンテンツからの継続収入
  • 障害年金や福祉制度との適切な組み合わせ

支援の成果を「何人雇用したか」だけではなく、本人がどれだけの収入を得られるようになったか、生活の選択肢がどれだけ増えたかによって評価してもよいはずです。

雇用率を満たすために仕事を作るのではなく、本人の収入を増やすために、雇用、販売、福祉制度、技術を組み合わせる。

「就労支援」から「収入支援」へ視点を広げることで、農園以外の選択肢も生まれます。

評価するべきなのは、作業時間ではなく出口である

障害者雇用の質を判断するとき、働いている姿や作業時間だけを見ても、実態は分かりません。

確認するべきなのは、仕事の前後です。

  • 誰が成果物を必要としているのか
  • どこで販売または利用されるのか
  • 生産量や品質が事業に影響するのか
  • 売れなかった結果が次の改善につながるのか
  • 担当者が変わっても仕事や技術が引き継がれるのか
  • 働く人の役割や収入が将来広がるのか

この問いに答えられない農園は、植物を生産しているように見えても、実際には勤務時間を生産しているだけかもしれません。

農園を提供するのではなく、事業の中に仕事をつくる

相鉄の事例が比較的自然に見えるのは、相鉄グループが持つ鉄道網とスーパーマーケット網の中へ、植物工場の成果物を接続できたからです。

もちろん、相鉄の取り組みも実証事業の段階であり、採算性や長期的な雇用の質については、今後も確認する必要があります。

それでも、作物が実際に店舗へ運ばれ、価格を付けて販売され、消費者の反応が次の栽培計画へ反映される点は重要です。

農園型雇用の代案は、農園をすべて廃止することではありません。

企業ごとに区画を貸し、同じ農作業を割り当てる方式から、企業の本業、販売網、顧客、地域資源を使って、成果物の出口まで設計する方式へ変えることです。

植物を育てるために人を置くのか。

人を雇用したように見せるために植物を置くのか。

それとも、社会に必要とされる商品やサービスを生み出す事業の中へ、人を迎えるのか。

見た目は同じ屋内農園であっても、この違いは大きいのです。

必要なのは「働く場所を用意すること」だけではない。働いた結果が誰かに届き、本人の収入と次の機会につながる仕組みを用意することである。

参考資料・出典

※「みずのゆめ稲」に関する記述は、株式会社あゆちが公表したプレスリリースに基づきます。量産性や採算性が第三者によって確立されたことを示すものではありません。

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